催眠の歴史

催眠の歴史22


1890年頃、ドイツの大脳生理学者オスカー・フォクトは、知的能力や批判力に優れた患者に、他者催眠で行なうような誘導法を自己暗示させると、自分自身で催眠状態に入っていけることを発見しました。

そして、これを行なうと、患者は自分自身をよく内省できるようになるし、健康状態も大幅に改善されることがわかりました。

フォクトによると、一日に数回この方法を行なうことで、体の調子がよくなり、精神的にも気分がよくなって、能力も高まっていくといいます。彼はこの自己暗示による方法を精神予防的休息法と名付けました。

フォクトの研究は、ベルリン大学の精神身体医学者ヨハンネス・ハイリッヒ・シュルツに大きな影響を与えました。

シュルツは催眠状態に誘導した被験者から、催眠中にどのような感覚を体感したかを報告してもらい、その内容を検討しました。その結果、多くの被験者から共通して同じような報告が得られることがわかりました。

特に次の二つのポイントは、多くの被験者が共通して挙げた点です。一つは、催眠状態に入ると、体が重たくなるというものであり、もう一つは体全体に拡がっていく温かい感覚です。

シュルツは、逆にこの「重たい」と「温かい」の二つの感覚を自己暗示によって作り出せば、自分自身で催眠状態と同じような状態に入れるのではないかと考えました。

シュルツは長年いろいろな暗示を試し、最終的に6つの暗示を中心とする体系にまとめあげ、その成果を1932年に「自律訓練法」として発表しました。

シュルツ自身は自律訓練法を催眠とは区別していますが、これは科学的に系統付けられた自己催眠法と言っていいでしょう。事実、その後多くの催眠研究者が自律訓練法を自己催眠法としてとらえ、紹介しています。

自律訓練法には、黙想練習と特殊練習という応用編もありますが、その核となるのは上述したように6つの暗示からなる標準練習です。標準練習の暗示は次の通りです。

基本公式   
「気持ちが落ち着いている」
各公式の前や途中に適宜この暗示を行ないます。

第一公式(腕と脚の重感練習)
「腕と脚が重たい」
筋肉が弛緩してダラーンとした状態を作り出します。それによって心身がリラックスできるようにします。
利き腕から始めて、反対の腕、両腕、利き足、反対の脚、両脚と続けて暗示を行ないます。最後に「両腕と両脚が重たい」と暗示します。一つの暗示を何遍も繰り返します(以下のどの公式も、やはり一つの暗示を何遍も繰り返します)。

第二公式(腕と脚の温感練習)
「腕と脚が温かい」
末梢血管を拡張させ、血液の循環を促進します。それによって、一層心身がリラックスできます。
暗示の順番は第一公式と同じです。

第三公式(心臓調整練習)
「心臓が静かに規則正しく打っている」
心臓の拍動をおだやかにし、安静感を作り出します。

第四公式(呼吸調整練習)
「呼吸が楽だ」
呼吸をおだやかにし、より深い休息が得られるようにします。

第五公式(腹部温感練習)
「胃(おなか、太陽神経叢)が温かい」
太陽神経叢(たいようしんけいそう)というのは、胃の奥にある自律神経が密集してできた太陽のコロナのような形をした部分のことです。この暗示によって、自律神経の働きをダイレクトに調整し、また内蔵の働きを調整します。

第六公式(額部涼感練習)
「額が涼しい」
額を涼しくして、頭寒足熱の「頭寒」の状態を作り出し、頭の働きを調整します。

現在、自律訓練法は世界的に普及し、医療や心理療法、教育、能力開発などさまざまな分野で活用されています。心療内科などでは、患者に自律訓練法を指導する所も多く、またカルチャー・スクールでも自律訓練法が教えられたりしています。

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